【経営に役立つ知識講座その1】あなたの会社は大丈夫?
~ 感染症リスク下で経営者が知るべき
「労災」と「訴訟」5つの落とし穴 ~
※本記事は、2022年1月に実施した第1回オンラインセミナーの内容を再編集したものです。
2020年代に社会全体へ大きな影響を与えた新型コロナウイルス感染症を主な事例として、
保険代理店 および 損害保険会社に所属する専門家が、
実際の相談事例や 制度運用の視点を交えながら 解説した内容をもとに構成しています。
※本記事の内容は、2022年1月時点の制度・情報に基づいています。
最新の制度・取扱いについては、各関係機関の公表情報をご確認ください。
感染症対策と言えば、マスクの着用、消毒液の設置、換気の徹底などが一般的です。
しかし、多くの経営者が見落としている、より深刻な「財務的・法的リスク」が潜んでいることをご存知でしょうか。
感染対策の裏側には、会社の存続を揺るがしかねない「労災」と「訴訟」という2つの大きな課題が存在します。
本記事では、すべての経営者が今すぐ知っておくべき、労災と訴訟に関する5つの意外な事実を、専門家の視点から解説します。
これらは別々の問題ではありません。
労災認定のハードルが下がったことで、企業の「安全配慮義務」がこれまで以上に厳しく問われ、
結果として高額な民事訴訟に発展するリスクが連鎖的に高まっているのです。
▶1. 感染症による労災は、あなたが思うよりずっと高い
まず知っておくべきは、新型コロナウイルス関連の労災申請の認定率が驚くほど高いという事実です。
2021年8月時点のデータでは、申請件数に対する支給決定件数の割合は約74%に達しており、
多くのケースで労災として認められています。

その結果、新型コロナは休業4日以上の労災全体の死傷者数で第7位にランクインするほど、ありふれた業務上のリスクとなったのです。

この背景には、厚生労働省が従業員に対して積極的な労災申請を促しているという事情があります。
医療従事者以外の場合、労災認定のポイントは主に2つです。
❶感染経路が業務によることが明らかな場合
❷感染経路が不明でも、感染リスクが高い業務に従事していた場合
ここで言う「感染リスクが高い業務」には、小売業などの販売業務、バスやタクシーなどの運送業務、育児サービスといった、
不特定多数の顧客と接する機会の多い職種が含まれます。
つまり、医療現場でなくとも、従業員のコロナ感染が労災と認定されるリスクは非常に高いのです。
▶2. 「労災保険だけで十分」は危険な誤解。遺族補償には限界がある
労災保険の補償内容は万全ではありません。特に、従業員が万一亡くなった場合の遺族補償には大きな限界があります。
従業員が労災認定された場合、主に2つの給付が受けられます。
❶療養(補償)給付
…治療費や薬剤費などが自己負担なく現物給付される。
❷休業(補償)給付
…療養のために休業した4日目から、1日につき給付基礎日額の80%が支給される。

しかし、従業員が死亡した場合の遺族給付は、客観的に見て十分とは言えません。
例えば、遺族一時金として300万円が支払われるケースもありますが、遺族の生活を支えるには心もとない金額です。
だからこそ、専門家の立場からは「国の労災だけで十分」という考えは、従業員の生活と会社の評判を守る上で極めて不十分だと指摘されています。従業員とその家族を本当に守るためには、公的な労災保険だけでは足りないのです。
▶3. 「安全配慮義務」が、労災とは別次元の経営リスクになっている
2008年、労働契約法第5条に「安全配慮義務」が明記されたことは、事業者にとって「革命的」な変化でした。
それまで単なる努力目標(ガイドライン)と見なされがちだったものが、明確な法的義務となった瞬間です。
このリスクの深刻さを示すのが、実際に起きた訴訟事例です。
ある企業で発生した職場クラスターにより夫を亡くした妻が、「会社が感染対策を怠ったためだ」として、勤務先に対して約8,700万円もの損害賠償を求める訴訟を起こしました。
これは、労災認定とは全く別の次元で、会社の安全対策が不十分だと判断されれば、従業員やその遺族から直接訴えられるリスクがあることを意味します。
労災保険は国が定める補償制度ですが、安全配慮義務違反による損害賠償は、会社の資産に直接影響を及ぼす民事上の責任です。補償の主体も金額の桁も、全く異なります。
ポイント1で見たように労災認定率が高いということは、裏を返せば「業務中に感染した」という事実が公的に認められやすい状況だということです。
これは、その後の損害賠償請求において、原告側(従業員側)に極めて有利な証拠となり得ます。
▶4. 対策を完璧にしても、賠償責任をゼロにはできない
「推奨される対策はすべて実施しているから大丈夫」と考えていても、賠償責任を完全に回避することはできません。
これは自動車事故に例えると分かりやすいでしょう。
たとえ相手が100%悪いと感じるような事故であっても、こちらに「前方不注意」があったとして1割~2割の過失責任を問われることがあります。
企業の安全配慮義務もこれと似ています。
会社としてやれる対策をほとんどすべて実施していたとしても、万が一の事態が発生すれば、一部の責任を問われる可能性はゼロではないのです。
だからこそ、「対策は万全だ」という過信は捨て、万一の賠償請求をカバーする保険を財務上の「最後の砦」として用意しておくことが、現代の経営における必須の危機管理なのです。
▶5. その保険、本当に使えますか?よくある補償の勘違い
万一に備えて加入している保険も、内容を正しく理解していなければ意味がありません。
ここでは、よくある保険の勘違いを2つご紹介します。
勘違い❶「入院しないと入院保険金は受け取れない」
【→事実】これは誤解です。
医師の指示に基づき、自宅やホテルなどの指定施設で療養した場合でも、「入院」と同等とみなされ、保険金の支払い対象となるケースがほとんどです。
勘違い❷「役員向けの24時間保障があれば、業務外のコロナも安心」
【→事実】 これは大きな落とし穴です。
一般的に、役員向けの24時間保障は「ケガ(傷害)」を対象としており、コロナのような「病気(疾病)」は対象外です。
役員が業務外でコロナに感染した場合、この保険では補償されない可能性が高いでしょう。
保険の世界では、突発的・外的な要因による「ケガ」と、体内で発生する「病気」は、リスクの種類が異なるため、基本的に別の補償として扱われます。
この基本原則を知らないと、いざという時に補償が下りないという事態に陥ります。
思い込みは禁物です。今加入している保険で何が本当に補償されるのか、担当の代理店に確認することをお勧めします。
まとめ
表面的な感染対策だけで満足していませんか?
その裏で、労災、安全配慮義務、そして訴訟という「見えざる負債」が膨らんでいないでしょうか。
今すぐご自身の保険証券を確認し、専門家と話す時間を確保してください。
その一手が、数千万円の損失を防ぐ最も確実な経営判断となるかもしれません。


